2011年 02月 18日
早すぎる少年の死 |
まさに晴天の霹靂であった。
まだ15歳になるかならぬかと言うのに、高熱と粘つく汗、びしょ濡れのシーツ、赤い斑点と喘ぎと錯乱に満ちた末期であった。
いや、彼、ハンノで、17世紀半ばから続いて来たブッデンブローク家の家系が絶えるであろうことは分かっていたのだ。ハンノが、偶然見つけた家系図の最後に記されていた自分の名前の下に、二本の平行線、数学の問題でこれ以上なにも計算すべきことはないという意味をこめて最終解の下に添える二本の線を引いたとき、それは明らかに予言されていた。
しかし、私はハンノが商人の掟に背いて、芸術家となり、生涯を孤独なさすらいのうちに過ごすことによってその断絶を成就するのだと思っていた。まさか、あの若さで急逝するとは、それも最近復刻された岩波文庫三巻本の最後の数ページというところで、なんの予告もなく「腸チフス」などという小見出しとともにあっけなく抹消されてしまうとは。
茫然自失とはこのことである。現実世界の出来事ならば葬儀に参加するだの、墓参するだのもできるが、小説のなかのこととあってはそれもできない。それでいて喪失のリアリティは現実よりもはるかに濃いのである。
困った。
by foryoureyes
| 2011-02-18 04:44