2009年 11月 24日
風の日 |
一日中強い風が吹きあれている。寒くはなく、珍しく湿気を含んだ大気である。雲が次から次へと吹き飛ばされて、夕暮れ時には三日月と金星がたいそう美しかったが、夜が更けてから雨になった。欧州には台風がないかわりに冬の嵐がある。こんな夜に森のなかを歩くと、嵐の海の底に沈んだかのような壮絶さを味わえる。
家の近くを走るアウトバーンの、相次いで現れるふたつのトンネルのうち、ひとつは無愛想なただの穴だが、もうひとつは微妙な曲線と高低を持ち、照明にも趣があってたいそう味わい深い。繰り返しくぐり抜けるうちに、最初は気づかなかったふたつのトンネルの個性が少しずつ際立っていく。自分が好ましく思う方のトンネルを抜けるときには、トンネルと自分との間に関係が結ばれてゆくのを感ずる。そこには当然フロイト的な連想が纏わりついてくるのだが、決して性的な連想だけではない。ここにはさらに掘り下げ、深めるべき全人格的な(むろん自分の人格だけではなく、トンネルの側においても)関係があると思う。言葉を介さない、剥き出しの、ひりひりするような、存在同士の交渉である。
by foryoureyes
| 2009-11-24 07:46