2010年 01月 26日
ヴェニスに死す、続き |
我がアッシェンバッハ氏は、美の奴隷と化して、コレラ蔓延するヴェニスの街をさまよっている。
「作家の幸福は、感情になりきり得る思想であり、思想になりきり得る感情である」
「言葉というものは、感覚的な美をほめたたえることができるだけで、それを再現する力はない」
「孤独は独創的なものを、思いきって美しい、あやしいほど美しいものを、詩というものを成熟させる。孤独はしかし、倒錯したもの、不均衡なもの、愚かしいもの、不埒なものをも、また成熟させるのである」
思うに、この作品は究極の不良老人文学ではないか。冷徹な合理の岸辺から、倒錯したもの、愚かしいもの、不埒なものの海へと飛び込んでゆく。
「この初老の男は覚醒を欲しなかった。陶酔は彼にとってあまりに貴いものだった。」
海と陶酔、それは無意識の比喩にほかならない。
「彼は海というものを、深い理由から愛している。―つらい仕事をしている芸術家の、安息を求める気持ちからである。そういう芸術家は、現象のもつおごりたかぶった多様性を避けて、単純な巨大なものの胸に実をひそめようとするのだ。未組織のものへ、無際限なものへ、永遠のものへ」
つまりは言語以前の世界へ・・・・・
by foryoureyes
| 2010-01-26 14:11