2009年 10月 27日
新いろはうた |
以前、グルジア共和国の詩人と会った時、彼らは自分たちの母語が固有の文字を持っているということを非常に誇りに思っていて、同じく固有の文字を持つ日本語に対して、並々ならぬ親近の情を示したものだった。島国の住人としては、固有の文字を持つことはきわめて自然なことだと思っていたので、彼らのプライドが新鮮だった。
あいうえおがあることは自然なのだけれど、「いろはにほへと」には驚嘆するとともに誇りを感じる。母国語のアルファベットを一字の重複もなく並べることで、一編の詩を成立させるなんて、世界広しといえども日本語だけだろう。いろは歌を詠んだのは弘法大師だったか、本当の国歌は「君が代」ではなく「色は匂えど」ではないかとすら思う。
文藝春秋の詩を考えているうちに、これに挑戦することを思い当たった。早速紙に五十音図を書き、はさみで一語ずつ切り取ってゆく。恐る恐るそれを並べ替えてゆくうちに、なんとたちまち三首ほど読めたではないか。ほかにも謎々詩や文藝春秋をひとつの街にみたてた詩など用意したのだが、編集者のH氏と相談の上この「新いろは歌」で行くことに決めた。
それにしても恐ろしいことである。五十音の組み合わせだけで、いくつもの詩がかけるだなんて。原稿を提出したあとも、ひとりで続けてみる。また三首できた。なんてこった。これは一種の無間地獄ではないか。
などと感慨に耽っていると、H氏からゲラが戻ってきた。一首のなかに「し」が二回使われているという。危うくとんでもない不良品を世に出すところだった。並べたカードをパソコンに清書して推敲するうちに、うっかり忍び込んだのだろう。見つけてくれたのは校正係の人だという。プロである。
by foryoureyes
| 2009-10-27 22:00